シャドウラン小説 没?

これだけではおそらく何の事やら訳が分からないと思いますが、このまま埋没させてしまわない為にもここでこういうものを書いていると宣言したくて(けど隠しページ)アップしました。御覧の通り小説の体裁すらとれていません。もっと推敲を繰返して、マシな文章にして行きます。


 突然、ドアが開いた。
「!!」
 …まともに反応したのは、ヘッジホッグ一人だけだった。他の連中が何の反応も示さずに騒いでいたり、何を考えたのか机の下に潜り込んだりしている中、彼一人、開いた入り口に銃口を向けていた。
「…あ、皆さん、探しましたよ!」
 入って来た人物はそう言って、ランナー達のいるカウンターにせわしなく寄って来た。ヘッジホッグが銃を下げ、
「わしの後ろに立つなぁ!」
 だいぶ酔っていたのか、村雨が突然後ろ蹴りをかました。
「とっとっと」
 酔っていたお陰なのか、幸いにもそのケリは人物から外れたのだが、人物は大きくよろめいてその場で尻餅をついてしまった。
「…カインさん、大丈夫ですか?」
 ヘッジホッグが素早く近付いて助け起こす。彼は、ランナー達がある事件で知り合った人物だった。
「え、えぇ、ええ、大丈夫です。」
 かなり動揺しているのか(当然だが)、カインの答えは若干しどろもどろになっている。
「えっと、その、お邪魔でしたか?」
「いえ。どうかなさったんですか?」
 そこでカインは、ハッと我に返って言った。
「そ、そう、お願いです、助けて下さい!」
「やだ」
 即座に拒否した人物二人。村雨、マインだった。打ち上げを中断されて二人とも不機嫌になっている。
「そう言うな。話だけでも聞こうじゃないか?」
 ヘッジホッグの言葉に、三人とも目を伏せた。
「…不味くなったわ。マスター、このコップこのままとっといてよ。」
「は?」
 マインの突然の言葉に、マスターがカウンターの向こうで目を白黒させる。
「それで、どうしたんですか?」
 急に態度を変えた村雨がカインに先を促したが、彼も彼で目を白黒させた。
「…ええっと、その、妹が行方不明なんです。」
「妹さんと言うと、確か私立探偵をやってらっしゃった?」
 テンが彼の言葉を補い、そして
「…確か…リンさんとおっしゃった?」
 ウィンがその言葉を引き継いだ。
「そうなんです。私達は普段は慣れて暮らしているんですが、定期的に連絡を取り合う様にしていたんです。ですが…」
「ある日ぷっつりと連絡が途切れた?」
「はい、三日前です」
 ヘッジホッグの言葉をカインはうなずいて肯定した。
「事務所に会いに行くとかしたんですか?」
 月華の質問にも、カインは絶望的な顔をしてみせた。
「はい、ずっと留守でした。」
「…報酬は?」
「え?」
 突然のマインの言葉に、カインは戸惑う。
「ひ、引き受けて下さるんですか?」
「どうせあたしが嫌って言っても、あんたはやるんでしょう?」
 マインは答える代わりに横目でヘッジホッグを見た。話を振られたヘッジホッグは、肩を竦めてみせただけだった。
「で、報酬は?」
「取り敢えず、今用意できるのは100万新円ですが…」
「ふむ…契約金として50万、妹さんを生死に関わらず見つけた時には報奨金としてさらに50万頂きましょう。…あっ、ついでに必要経費…」
「計100万だ。」
 がめつく稼ごうとするマインの言葉を、ヘッジホッグが遮る。恨めしそうな目を向けられたが、気にしない。
「お姉さん、領収書がなければ経費として申請できませんよ。」
「自己申告制に決まってるじゃない。」
 月華がからかう様に言うのを、マインはあっさりと躱した。
「…じゃ、どこから始める?」
 ウィンがログインギアを手に取りながら言った。
「取り敢えず、事務所だな、他に何も手がかりがない。」
 ヘッジホッグは言うが速いがすぐさま立ちあがった。
「案内して下さい。」

 ヘッジホッグの運転する車のフロントガラスの向こうにその事務所が見えて来た頃、突然その事務所の一階の窓から人影が飛び出して来た。窓ガラスが盛大に飛び散る。
 その人影の飛び乗るやいなや近くに停車していた車がタイヤの擦れる音と共に走り出した。
 ヘッジホッグはすぐさま伴走していたバイクのマインとウィンに合図を送った。マインは親指を立てて了解を示した。ウィンも少し遅れて返事する。
「全員掴まれ。追うぞ!」
 アクセルを踏み込むと、それに呼応してエンジンが唸る。
 突然、事務所の前にバイクを停める二人を写していたサイドミラーが弾け飛んだ。
「撃ってきやがった!」
 すぐさま後部座席のテンが撃ち返した。遅れて村雨も撃ち始める。月華も精神統一に入った。
「ひぃっ!」
 ボンネットに弾けた火花と銃声に助手席のカインが情けない声をあげる。
 テンと村雨の二人は撃ち続ける。月華が火球を放った。だが、お互いに被弾しない様に猛速で蛇行しているため、なかなか当たらない。
「…だめだ。」
 ヘッジホッグは追跡が無理と判ると、車を停めた。
「え?停めるの?止めるの?」
 物足りなそうに村雨が逃走車を見やる。逃走車はあっという間にストリートの影に消えて行った。
「これ以上は無理だ。おそらく、あれは逃走用に改造された運び屋の車だろう。」
「運び屋…ビーン・バンデット!」
 村雨が意味不明な歓声をあげる。テンが「何の事です?」と月華に聞いたが、彼女も首を横に振るだけだった。
「…兎に角、車を何とかしないとな。」
 そう言ってヘッジホッグは車から降りた。続いて他の四人も降りる。
「あーぁ、すっかりポンコツになっちゃいましたね。」
 軽口を叩きながらテンが銃創を子細に眺める。
「やっぱり、必要経費を要求した方が良かったんじゃない?」
 テンの言う通りすっかりポンコツになった車を見て、月華がヘッジホッグに言った。
「…」
 ヘッジホッグは無言なのだが、カインの方がやきもきしている。
「この弾はプロですね。ただの強盗じゃありません。」
 テンの言葉を聞いてヘッジホッグは思案顔になった。
「…事務所に何が…」


 事務所前に残ったマインとウィンは、取り敢えず割れた窓に近付いた。壁に背を向け銃を構えるマインを見て、ウィンもそれに習う。
 警戒しながらマインは事務所の中を見回した。取り敢えず荒らされているのは分かったが、人影は見えない。
「誰もいないの?」
 構えを緩めたマインを見てウィンは早とちりしたらしく、窓枠からにゅっと顔を晒しだす。マインは慌ててそれを窓枠の外に押し返した。
(誰か…いるわ。)
 二人は事務所のドアの前に近付くと、先程と同じ様に壁を背に向けて銃を構える。
「…」
 マインはドアノブに手を掛け、ゆっくりとそれを回した。カチッ、と音がしてドアノブが止まる。
「!」
 勢い良くドアが開け放たれる。ギャングガールらしき人影がそこにいた。
「動くな!」
 人影は警告を聞かず、すぐさまマインに殴り掛かってきた。マインはその拳を寸での所で受け止める。
 再び人影が拳を振るう。マインはそれを受け流し、素早い動きで回り込むと相手を羽交い締めにした。
「誰?」
 マインは相手の耳もとで囁いた。
「あんたなんかに教える名前は…?!」
 相手の答えが終わらないうちに、マインは逆手を取ってそのまま床に組み伏せた。すかさず銃を突き付ける。
「目的は?」
「聞かれて教えると思うの!」
 マインは納得した様に「ふむ」と小さくうなずくと、質問の種類を変える事にした。
「あなた、ここで殺されるのと後で仲間に追い掛けまわされるのと、どっちがいい?」
「そんな脅しは効かないわ!」
 銃声が響いた。
 ギャングガールが声にならない叫びをあげる。マインが耳を撃ち抜いたのだ。
「…ったく、世話を焼かせるわね…ウィン、ボオーッとしてないで、ロープ持ってきて。」
 ドアの外であっけに取られていたウィンはそこで初めて我に
「あ?ロープ?」
 まだ帰ってなかった。だが、マインの(控えめに言って)イライラした顔を見て脳味噌が急速に冷却されたらしかった。
「あ、はいはい、何か縛るものだね。えっと…非常用のロープがあると思うんだけど…」


 ヘッジホッグ達が車を騙し騙し転がして事務所まで戻ってきた時、マイン達は丁度ギャングガールを縛り上げて吊るしていた所だった。
「よし、これで鞭があれば完璧ね。」
「何が完璧なんだ?」
 予想外の突っ込みにマインは慌てて振り向いた。ヘッジホッグだった。
「あら、お帰り。その様子じゃ負け戦ってとこ?」
「あぁ。お陰で車がポンコツになった。ただの強盗じゃない事は分かってはいたんだがな、あれはプロだ。」
「ランナー並みの?」
「その通り!運び屋は走ってなんぼ!」
 二人の会話に村雨が意味不明な茶々を入れている間、他の三人はギャングガールを眺めながら、
「何で吊るし上げてるんですか?」
「いや、マインの趣味なんだって。」
「…お下品。」
 下らない会話をしていた。が、最後の月華の言葉にマインが怒りの一瞥をくれたところでその会話はストップした。
「…で、誰だ?」
 ヘッジホッグは最も重要な事を質問するが、マインは肩を竦めて答えた。
「教えてくれないから吊るしたのよ。」
「お前は尋問は苦手だったな。皆は奴らが何をやっていたのか調べてくれ。カインさんも手伝ってやって下さい。」
 そう言うと、ヘッジホッグは銃を抜き、そのギャングガールに向けた。
「お前の素性と、ここにいた目的を十秒以内に答えろ。1、2、3」
 銃声が響く。弾は、ギャングガールの左腿を撃ち抜いた。
「4、5、6」
 再び銃声。今度は右腿だった。
「7、8…」
「言うわよ!言えばいいんでしょう!」
 痛みにたえかねたギャングガールは涙を流しながら叫んだ。ヘッジホッグが銃を降ろす。
 彼女は、この辺にいる小さなギャンググループの一員だった。彼女はボスに言われてリンの事務所まで例の人間達を連れて来たらしい。
「あいつらは一体誰だ?」
「知らないわ。あたしは連れて来ただけなんだモン。」
「奴らはこの事務所で一体何をしていたんだ?」
「なんか、書類を漁っていたみたいだったわ。」
 これ以上意味のある事は聞き出せそうにないと、ヘッジホッグは質問するのを止めにした。
「…だ、そうだが、何か見つかったか?」
 カインを含め六人は散らばっている書類を一生懸命整理している所だった。
「一応、パッと見て最近のモノと判る書類をピックアップしたわ。でもマァ、その子の話じゃ重要な部分は持ってかれたと思っていいわね。」
 あごをギャングガールの方へしゃくりながら、マインはヘッジホッグに書類の束を渡した。
「そうだな…ウィン、一応その端末も調べてくれ。マトリックスに痕跡が残ってるかも知れん。」
「了解。」
「最近は何かの麻薬の調査をしていたみたいですね。」
 テンが書類をトントンと纏めながら言った。
「あ、こっちにレッド・ジャッカルって書いてあるわ。」
 月華が書類を一枚取り上げた。
「んー?レッド・ジャッカルって言うと、最近出回りだした麻薬だよな。何か、コストパフォーマンスが高いとかで結構人気の。」
 村雨がその書類を覗き込む。
「…その調査のクライアントはわかるか?」
 ヘッジホッグが手元の書類をめくりながら月華に聞いた。
「わかんない。」
 だが、月華も首を振るだけだった。
「カインさんはそう言う話を聞いた事は?」
「いえ。何も聞いてません。」
「…どうも、レッド・ジャッカル以外に手がかりは無さそうだな。あぁ、カインさん、あなたはもう帰った方が良い。」
 ここから先は危険になる。そう言う意味だった。
「えぇ、…わかりました。皆さん、くれぐれも妹の事をよろしくお願いします。」
 カインはそう言って頭を下げると、事務所から出て言った。
「…ウィン、何か分かったか?」
 ウィンはログインギアを上げると、首を振った。
「ダメ。マトリックスに痕跡はなかった。でも、レッド・ジャッカルの流通ルートに関する情報が残っていたよ。…少しだけどね。」
「何だ?」
「そこいらのストリート・チルドレンでさえ配ってるってさ。」
「…」
「それって、何も分かってないって言うんじゃないの?」
 月華の言葉は眉を釣り上げただけのヘッジホッグの気持ちを図らずも代弁していた。